MEMO03
2000年度夏学期(3年次)
ジェンダー論演習
清家篤 『高齢化社会の労働市場』報告
1 高齢者の就業を考える意義
・ 男子高齢者の就業行動を,公的年金(厚生年金)との関係を中心に分析
・ 男子高齢者の就業行動が興味対象となる理由
(1)労働供給分析の対象たりうる存在であり,かつその集団の全人口に対する割合が高まっている
− 男子高齢者……必ず働くわけではない,働く場合にも正規就業以外の場合が多い
− 寿命が短かった時代は職業生活の終焉は人生の終焉とほぼ同じであり,また,高齢者の労働力率も高かったが,高齢者人口自体は大した集団ではなかった
(2)労働供給が四半世紀にわたって減少し続けるという顕著な趨勢
− 1960年代前半以降の労働力率の低下(1960年代前半以降,男子65歳以上の層で20ポイント以上,男子60〜64歳の層でも10ポイント近くの低下)
− これまでは高齢者の就業問題は,生きがい・働きがいとの関連で議論されることが多かったが,男子高齢者の労働供給意欲の低下の背景,高齢者の真の労働意欲はどの程度なのかに関心を向ける
(3)就業と厚生年金の間の政策インプリケーションの連鎖
− 社会・経済変数によって変動する男子高齢者の就業行動の正確な把握,趨勢的低下傾向の見られる労働力率の見極めの重要性
・ 分析対象は,男子,雇用者,60歳代の高齢者
− 男子……女子の労働供給に関する分析の多さ,女子高齢者の労働力率は低位安定,サンプル数の少なさ
− 雇用者……高齢者の雇用と関連しての就業行動に関心,国民年金の職業選択に対する弱いインパクト
− 60歳代……雇用・就業行動の分析のため,厚生年金の支給開始年齢との関連,超高齢層は雇用就業する確率が高くないため分析対象となりにくい
2 高齢者就業の趨勢
・ 日本の高齢者の労働力率は他の国に比べて高く,国際的に見て高い労働供給(就業)意欲を示す反面,労働力率が趨勢的に低下している
・ [要因1]人口的要因
− 65歳以上の労働力率低下は,70歳以上の年長高齢者の比重増大の影響を受ける
・ [要因2]就業構造的要因
− 高齢者に占める自営業者の比率の低下(定年などの就業継続の制度的阻害要因がない,通勤や転勤などの体力的問題のある地理的移動がない,健康状態や体調に合わせて働き方を自由に調整可能)
− しかし,この要因では1970年代以降の急速な労働力率低下を説明できない
・ [要因0]健康状態
− 65歳以上の労働力率低下は,人口学的要因によるもの,60〜64歳層では無関係
・ [要因0]労働条件
− 第一次石油ショック後の高齢者に対する労働条件の悪化→失業者の増加は労働力率の低下にはつながらないが,求職意欲減退効果を発揮(?)
− しかし,高齢者をとりまく労働環境は以前から悪かった
・ [要因3]厚生年金の充実
− 1973年の年金大改正(給付額大幅アップ,物価スライド制)以降の厚生年金の充実,年金制度の成熟化→雇用者であった高齢者の引退の自由が拡大(無理に働かなくても済む)
3 高齢者の労働供給分析の系譜
(略)
・ 先行研究の課題
(1)被説明変数……これまでは労働供給関数 L=f(W,PEN,Z) を設定してきたが,労働供給行動には,就業・非就業という非連続的選択と,就業を選択した場合の労働時間の決定という異なる次元を持っている
(2)同時決定バイアス……年金受給額と労働供給量の間の同時決定関係→独立変数たりえない
(3)サンプル・セレクション・バイアス……非就業者については賃金(潜在的な市場価値)を実際には観測できない
(4)安定的なパラメタの推定と収入制限の影響の直接的な分析
4 高齢者の労働供給と厚生年金
・ [結果1]厚生年金は就業減退効果を確かに持つ
・ [結果2]教育程度の高さは,60歳代でも市場賃金をかなり上昇させる→教育程度の高い高齢者ほど就業確率も高くなる
・ [結果3]年齢,健康状態における問題,定年経験は最低供給賃金を引き上げ,市場賃金を下げるため,就業確率を大きく低下させる
・ [結果4]同時決定バイアスに関する推計 (略)
5 年金の労働供給に与える影響の趨勢
・ [結果1]公的年金の労働供給に与える影響(感応度)は,1970年代後半から1980年代前半にかけて大きくなったが,1980年代になると,影響は安定化する
− 1970年代半ばからの年金受給資格を本格的に満たす受給者の増加,1973年の年金制度の大改革→年金が重要な所得源としての地位を獲得→1980年代に入り,その認識も定着,安
・ [結果2]公的年金の1パーセントの変化は,就業確率をほぼ0.25パーセント減少させる
6 生涯年金資産と就業行動(年金とフルタイム雇用の関係)
・ 生涯年金資産……生涯にわたって得られる年金総額(厳密にはその割引現在価値)

(1)引退年齢(支給開始年齢)が遅くなるほど,生涯中に受け取る年金資産の総額は少なくなる(厚生年金給付の収入制限による
(2)ある年齢で引退したときの厚生年金給付額はその年齢までの年金加入期間と生涯平均賃金によって決まり,前者は引退を延ばせば長くなるが,後者は低下することもある
・ [結果]引退を1年先に延ばすことによる年金資産増加比は,年金の支給開始年齢である60歳を境にマイナスに転じ,このことは,各歳年齢別の就業率が60歳を境に大幅に低下することと符合している→60歳代前半では,標準的労働者のフルタイム雇用はペイしない
− 標準的労働者のフルタイム就労分の勤労収入があると,その1年の年金給付が停止されることに原因がある→ワークシェアリングに貢献する可能性はあるが,労働力不足経済の中で,その労働力が期待されている高齢者の労働意欲をそぐ
7 厚生年金給付の収入制限と労働供給(年金とパートタイム雇用の関係)
・ 在職老齢年金制度→年金額をなるべく減らされないように収入を低く押さえる行動が現れる
・ 在職老齢年金制度(年金受給の制限)があることによって,年金給付に制限がない場合と比較して,無差別曲線の形状によっては所得効果以上に労働供給を減らす可能性がある
・ [結果1]厚生年金受給資格者の勤労収入は収入制限による所得線の屈曲点(9〜10万円)に対応する勤労収入階級に飛び抜けたモードを持つのに対し,厚生年金受給資格を持たない人ではそのような特性を持たない
・ [結果2]パートタイム比率で見た各収入階級別の労働時間は,厚生年金受給資格者と厚生年金受給資格のない者との間で差はなく,屈曲点での主体均衡の低賃金誘発は確認できない→勤労収入の抑制は,時間賃金率(時給)の引き下げではなく,労働時間の短縮によってなされている
8 就業条件を選択する自由度と主体均衡行動
・ [結果]年金受給資格者の勤労収入分布における,所得線の屈曲点に対応する勤労収入階級への集中度は,自由職種,四大都府県ほど高いが,年金受給資格がない者の場合はむしろ分散する→自由職種では就業条件選択の自由度が大きいため,四大都府県ではバラエティーに富んだ雇用機会が豊富なため
9 退職金の退職抑止,引退促進効果
・ 純退職金利得……将来企業年金をもらう権利を得ている従業員が,1年勤続を延ばすことで年金計算上どれほどの利得を得られるか
・ [結果1]勤続とともに退職金額が増えるという点では,日本の退職金制度は退職抑止的であるが,50歳を超える頃から企業は従業員に対して退職抑止動機を持たなくなる
・ [結果2]純退職金利得は雇用期間の大半でプラスであり,40歳前後までは増加するが,それ以降は減少に転じ,絶対額でマイナスになる場合も出てくる
・ [結果3]産業によって純退職金利得と年齢・勤続の関係は異なる
・ [結果4]限界生産力よりも賃金が低いときには退職抑止力を持ち,限界生産力よりも賃金が高くなる中高年期には退職促進力を持つ,銀行は特殊な例(出向など)である
10 高齢者の雇用と公的年金(政策提言)
・ 年金支給年齢引き上げは,引退の自由を制限する可能性があるため,早期受給の減額年金を導入すべきであり,これと企業の年金,早期退職優遇退職金制度を併用して引退の自由を保障すべきである
・ 人為的に就業意欲をそぐような制度は避け,年金の給付には制限を付けず,本格的に働きたい人に好きなだけ働いてもらい,十分保険料を納めてもらう方がよい
(1)60歳代前半では,収入に関係なく一切年金を支給しない……引退の自由を奪う
(2)60歳代前半では,収入に関係なく全額支給する……高所得者に年金を受給
→解決策として,厚生年金は完全に引退した場合にのみ支給し,いつ引退しても生涯にもらう年金総額が一定になるようにする
・ 年功の緩い賃金体系へ,管理職ではなく専門的能力によって働くことができる人事体系への賃金・雇用制度の変革
→雇用流動化の中で公的年金は重要度を増す(ポータビリティの高さ)
→長く運用できる若いときの保険料を多くし,短くしか運用できない中高年の保険料を少なくする効果
課題文献
●清家篤,1993,『高齢化社会の労働市場』,東洋経済新報社