MEMO04


2000年度夏学期(3年次)
ジェンダー論演習
日本の老齢年金制度とフランスの退職年金制度の比較

1 日本老齢年金

1.1 日本が直面している問題・社会状況

・ 高齢化社会の進展
 − 労働力として高齢者を確保する必要性→公的年金制度との兼ね合い
 − 受給世代と現役世代の負担バランス(2025年予測……高齢者1人を現役世代2.4人で支える)→負担抑制かつ十分な給付という矛盾→積立金の自主運用も含めた対策の必要性
 − 高齢者単身世帯や夫婦のみの世帯の増加→公的年金の重要性の増大

・ 就業構造の変化
 − 退職概念の明確なサラリーマン層の増加→公的年金の重要性の増大
 − 就業構造の変化に対応した年金制度の改革

・ 信頼性の失墜

1.2 日本の年金概観

・ 政府による運営……国家による社会保障の一環として行われている

・ 社会保険方式,完全賦課方式の採用

・ 国庫が財源のうち3分の1を拠出……高齢化社会に伴って,国の財政支出も増大

・ 支給年齢は65歳が基本(平成元年度改正)

・ 年金給付額の物価スライド制,厚生年金のネット所得(=手取り)スライド制(平成6年度改正)……かつては名目賃金にスライドさせていたが,現役世代と受給世代との公平性の維持を目指す(賦課方式に必然)

・ 高齢者就労誘導型の在職老齢年金制度(平成6年度改正)……高齢者の就業意欲を阻害していたかつての制度を改善

・ 三階部分としての国民年金基金,厚生年金基金の存在……特に厚生年金基金の場合は,国民年金だけでは満足な生活を送ることができないことの裏返し

・ 国民年金では,日本国に住所を有することが,加入条件の中心

・ 主婦の取り扱いとしての第三号被保険者(第二号被保険者の被扶養配偶者であって,20歳以上60歳未満の者)……近代家族的見方に基づいた制度であり,また一方では婦人の年金権の確立(=離婚した場合を考慮)を銘打った制度

・ 厚生年金では,雇用者側と被用者側とが保険料を折半

2 フランス退職年金

2.1 フランスが直面している問題・社会状況

・ 高齢化社会の進展
 − 年金財政の基盤に大きな打撃(1996年……受給者1人を現役世代約2人で支える)→制度改革の必要性,所得保障の確実性を担保するための積み立て方式の年金システムの導入

・ 失業問題の悪化
 − 若年層の就業先の確保→高齢者を労働市場から引退させるように誘導(支給開始年齢,段階的引退制度)

【グラフ】失業率の推移([総務庁統計局,1999:42]をトレースし着色)

2.2 フランスの年金概観

・ 日本とは異なったタイプの「二階建て構造」を取る者がほとんどで,法定基礎制度(regimes legaux de base)と補足退職年金制度(regimes complxermentaries de retraite)と呼ばれる

【図】フランスにおける所得保障制度の概念図([藤井良治,1999:138]を簡略化)

・ 政府が保険者となることはなく,個別の年金保険制度に設けられた金庫(caisse)と呼ばれる機関によって管理運営がなされる

(1)法定基礎制度
 − 何らかの職業活動に従事することを要件に被保険者資格を取得し,基本的に,現役世代に従事していた職業活動に応じて所属すべき年金制度が決定され(職域[職業別]保険制度),これらの年金制度が法定基礎制度と呼ばれる
 − 例としては,一般制度(商工業労働者),農業制度(農業労働者),特別制度(船員,国鉄,公務員など),自治制度(農業経営者,商工業自営業者など)がある
 − そのため,任意加入の保険として,疾病に対する個人保険(assurance personnelle),老齢などに対する任意保険(assurance volontaire)も存在する
 − 法定基礎年金制度は保険料の算定基礎となる報酬に一定の限度額を設けており,十分な所得保障を担保してはいない→補足退職年金制度

(2)補足退職年金制度
 − 個別企業独自,あるいは一定の職種や業種別,あるいは職種などの枠を超えた範囲で設立される退職年金機構の総体
 − 一般制度と農業制度に加入するすべての者を強制加入させる
・ 賦課方式(repartition)を採用,基本的な退職年金の支給開始は60歳
・ 社会保険を基本としながらも,無拠出給付が存在する
・ 段階的引退制度……日本の在職老齢年金制度に類似

2.3 社会保険料から社会保障税へ──租税代替化(fiscalisation)

・ 社会保険料の負担ベースが給与額であり,また,料率賦課のベースになる給与所得には上限が設けられている,その上保険料率も高い→問題を生み出す
 − 賦課ベースが給与所得……企業の労働コスト上昇,フランス企業の国際競争力低下,雇用の手控え,給与以外の所得は負担を逃れることができるため不公平
 − 給与所得への上限の設定……富裕層に有利

・ 1991年に一般福祉税(contribution social generalisee)の創設(給与所得のみならず,医療保険料収入などの移転所得にも0.5%課税)→これに対応して社会保険料率削減

・ 1996年に憲法を修正し,社会保障を労使双方が維持すべきものであるとの認識を改め,国の管理下に実質的も・名目的にも置かれることとなった(アラン・ジュペ首相)

・ 1996年に社会債務金庫が設立され,社会保障中央機関の過去の債務が全額移転され,この債務を返済するための目的税である社会保障債務返済税(CRDS)が創設→社会保障制度と所得税制がリンクされ,社会保障財政への国の責任が明確化

3 論題・今後の日本は

・ 「(フランスの)いままでの負担増政策は,負担のベースとなる所得を広げることで対応してきたに過ぎない」[矢野,1999:79]

・ 国が社会保障を行う性格の強い日本では,目的税化の背景にある考え方が若干異なる

・ 経済の安定段階の中の目的税創出は,所得減税などの一般減税が行われることのしわ寄せとして上昇しやすいのではないか

・ 日本の年金改革は延命措置に過ぎない,高度成長時代への愛着

・ 福祉国債

参考文献

●藤井良治,1999,「第1章 総論」,『先進諸国の社会保障(6) フランス』,東京大学出版会:3-26
●矢野秀利,1999,「第3章 財政制度と社会保証制度」,───,───:47-80
●加藤智章,1999,「第6章 年金制度」,───,───:127-144
●厚生省,1997,「年金自主運用検討会報告書」,厚生省ホームページ
●───,2000,「年金審議会全員懇談会・総会議事録」,───
●財団法人厚生統計協会,1999,『厚生の指標臨時増刊 保険と年金の動向 1999年版』,財団法人厚生統計協会
●総務庁統計局,1999,『世界の統計 1999』,大蔵省印刷局
●───,1999,『厚生の指標臨時増刊 国民の福祉の動向 1999年版』,───
●武川正吾・塩野谷祐一編,1999,『先進諸国の社会保障(1) イギリス』,東京大学出版会
●小松隆二・塩野谷祐一編,1999,『先進諸国の社会保障(2) ニュージーランド・オーストラリア』,───