2001/03/24 ここは,どこ?

 日本で過ごしていたのと変わらない休日の朝が訪れる。朝遅く起床。ミネラルウォーターを飲む。ホントはやらなきゃいけない宿題もあるんだけど,こんな辺境のソウル大にこもっていたら気が腐る,ということで梨泰院(イテウォン)に行くことに決定。

 でもやっとかなきゃいけないことを先に済ませる。まずは情報社会学の授業で出された書評の課題図書を借りなきゃいけない。学生証がまだ手許にないので,同じ留学生という身分でありながら,すでに学生証を持っているS君に借りてもらうことにした。いわゆる「名義借り」ってやつね。それにしても全図書館合わせて「1人5冊・10日間まで」ってのはチトいけてないんじゃないかい?

 次にやらなきゃいけないのは,その本のコピー。1冊の本はちょっと1週間じゃよめないからね(英語だし)。日本なら一生懸命自分でコピーをとって,ステイプラ(ホチキスは商品名でっせ)で綴じるところだが,ここソウル大には「複写室」なる店がいくつかあるのである。この部屋,文字どおり「複写をしてくれる部屋」で,資料や本を持ち込むと,係員がコピー「してくれる」のである。入学の時,パスポートをコピーしてもらったことはあったが,本まるまる1冊をコピーしてもらうのは初めてだ。看板によると,複写だけでなく製本もしてくれるらしい。寄宿舎内の複写室に合計5冊のコピーと製本を頼んだところ,3日くらいかかるとのことだったが,特に急ぐ1冊だけは明日までに仕上げてもらうことにした。寄宿舎複写室のおじさん,とってもいい人なんだよなぁ。たまに学生に混じって寄宿舎食堂でご飯食べているのを見かける。それにしても,ソウル大生! こんなことまで他人に全部やってもらっていてどうする! 甘やかされてるぞぉ! どうでもいいけど,これって著作権完全に無視してるよな。でも便利だからめをつむってあげる。


地下鉄5号線。開通したばかりなのでキレイです。


駅名表示はハングル・英語・漢字です。
いざとなったら路線カラーと駅番号(イテウォンは630)でなんとかなる。

 と,ここまでですでに午後1時,しかしぽかぽか陽気の今日,外出しないテはない。ちょっと遅いがやはり梨泰院(イテウォン)に繰り出す。イテウォンは革製品で有名な街。おなじみカッチャ(ニセモノ)も数多い。あやしい服店やみやげ物屋も軒を連ねる。外国人が多く,「ここは本当にソウルか」と言った感じである。

 お店のある区域自体はそんなに広くないし,個人的にはヨンサンほどは心惹かれなかった。帰りがけに駅前のバーガーキングで食事。ちょっと韓国人にとっては割高なのか(セットが4,900ウォンくらい),店の中にいるのは外国人ばかり。結局,空気の悪さと外国人の多さばかりが印象にのこる街であった。


イテウォンの地下鉄の駅前風景(クリックすると拡大します)。

 2001/03/25 あえなく敗北。

 昨日頼んでおいた本の複写と製本が完成。午後1時ころ受け取りに行く。予想以上のできばえだ。さすがぁ! 12,000ウォンもかかったが,買うよりは安いハズ。その後は宿題。東大に提出するレポートと,明日の韓国語の授業の宿題(韓国語の研究計画書)である。夕方は洗濯をする。しかし,洗濯室に置いてあるテレビのチャンネル争いに負けて「クイズガチョッタ」は見られなかった。ちくしょう。秘かに楽しみにしてたのにぃ。

 2001/03/26 緊張して損した。

 今日の韓国語の授業では,各自の研究分野に関しての5分間スピーチが課された。先週から準備をするよう言われていたのだが,時間がなくて準備ゼロのボクは緊張しまくりである。他の人のスピーチもそこそこに,メモ用紙にスピーチ内容をメモしていた。しかし,先生の「今日は時間がなくなったので,来週に持ち越します。来週はサカザキくんからですね」の声。緊張して,焦って損した。

 2001/03/27 外国人登録証受け取り。

 ソウルを再び寒さが襲う。春,急に寒さが襲うことを韓国語では「コッセム」と呼ぶ。雪もぱらぱら降る始末である。

 授業では特記すべきことは無し。しかしながら,外国人登録証を受け取りにオモッキョまで出向く。これで晴れて政府に認められた,「正しい外国人」と相成ったわけである。ついでにビザもマルティプル(ビザ有効期間内なら何度でも出入り可能なビザ)にその場で書き換え。50,000ウォンの手数料がチト痛い。

 学科の友人に「外国人登録証」を見せたが,別に珍しがらない。よく考えたら,韓国人って全員,指紋付きの住民登録証を持ってるんだったっけ。


これが外国人登録証。プラスチックカードでクレジットカードサイズ。

 2001/03/28 料理人の地位。

 語学堂が終わって語学堂の仲間と食事を取っていると,学科の人が「建物の前でポジャンマチャ(布張馬車・屋台のこと)をやってるから来て」とのお誘い。二つ返事で行ってみると,それは「裁判費用の募金を兼ねた屋台」であった。

 屋台では何もやることがなかったので,言葉もロクにできないくせに,昼間から三・四年生や院生とマッコルリをあおる始末。それでもさすがに気が引けたのか,もともと料理が得意な僕は,途中からはパジョン(ネギのチヂミ)のフライパンで本領発揮である。

 はたから見ていると手際は悪いし,不衛生だし(切ったキャベツをそのへんの「キレイがどうかわからない」段ボールに直に投入),イイカゲンだし(風が強くなったから学生室でチヂミを焼こう! って大学の建物の中で直火を使っても危険じゃないのか?),あまり食べたくはないシロモノであった。たぶんソウル大学だから許されることであって,梨花女子大学(名門です)や高麗大学では許されないはず。そもそも,ソウル大は街から離れていることもあり,ダサさは折り紙付きなのだ。

 小指に小さいヤケドをしたものの,パジョン作りは無事終了。学科の女の子から「坂崎おっぱー(先輩)は料理が上手だねー」と言われてうれしがっていたが,あとで学科の別の友人が,「料理が上手だ,という言葉は韓国ではほめ言葉ではない」ことを教えてくれた。韓国は職業の貴賎意識が強く,料理人の地位はかなり低い部類に入る。男性に対して「料理が上手ですね」と言うときは,「料理『なんてものが』上手なんですね」という意味合いを含んでいるのだ。最近では世界の流れと同じように,家事の分担が議論されるようになってきているため,このような意味合いを必ずしも含んでいるとは限らないらしいが,男で料理が上手というのはあまりアドバンテージにはならないようだ。特技が裏目に出た模様。

 2001/03/29 韓国の低い著作権意識を特許庁長官に問う。

 いつも通り「情報社会学」の授業に出るため,205号室に向かうが,人の姿がない。そういえば先週の授業の終わりに「来週は別の教室に来るように」みたいなことを言っていたなぁ……と思い出しながら社会科学大の建物をさまよっていると,偶然,同じ授業に出ている三年生に遭遇。今週はいつもの講義の代わりに特別講義があるため,教授会議室に集合だということを教えてもらう。

 教授会議室に行ってみると,いつもの情報社会学の受講者以外に,社会学科の学生が数人そろっている。実はこの特別講義,別に「情報社会学」の特別講義というわけではなかったのだ。ただ,あまりにも参加者が少ないと見栄えがしないので,特別講義の責任者の教授が担当している「情報社会学」の受講生が召集された模様(苦笑)。他の社会学科の学生に聞いてみると,「学生室で暇してたら召集された」とのことで,かなりガンバって受講生をかき集めたらしい。

 講師はソウル大社会学科出身で現在,韓国特許庁長官のイム・テギュ氏。「21世紀戦略マインド」と題し,主にビジネス特許などの観点からの話があった。話の内容はかなり平凡なもので特に学ぶところはなかったが,ツッコミのタネになりそうな要素をかなり含んでいた。その中から二点ほど。

 「21世紀のキーワードは,無限競争・顧客満足・経営革命の三つだ」……と熱弁さてれも,少なくとも顧客満足に関しては,日本は昔から実践しているんですけど。「21世紀」のキーワードに,今さら改めて「顧客満足」と入れてしまうところが,韓国らしいというか。

 「これからはソフト面の特許が重要です」……と言っている割には韓国はパクリ商品(完全なニセブランド品から,デザインをパクったお菓子なんかまで)の宝庫だし,違法コピー(海賊版)は多いし,韓国版ナップスター(ソリパダ・「音の海」の意)も普及しているし,著作権意識が低いんじゃないですか。

 二番目のツッコミに関しては,たどたどしい韓国語ながら(一年生に笑われるくらいの)特許長官に直訴。特許庁にとっても頭の痛い問題らしい。長官の解答の中で「そのような業者があったら秘密に申告してください」というコメントがあったのがこれまた韓国らしい。「申告」に関してはまた別のコーナーで書く予定。

 2001/03/30 特になし。

 日記を書くのをさぼってしまったせいもあって,特に何もなかった日は書くことがない(詫)。手帳にもなにも書かれていないので,普通の一日だったんだろう。というわけで,次の日に進む。

 2001/03/31 動物園の横の美術館へ,そしてサイバーテロ。

 実はあさってまでに日本に送らなければならないレポートがあったのだが,週末くらいは街に下りてシャバの空気を吸わないとおかしくなりそうだ。ソウル大学はそんなことを思わせるくらい,山の中にある。そういえばここ二ヶ月くらい美術館に行っていない。美術館(特に現代抽象美術やメディア・アート)が好きなので,そろそろ禁断症状が出てきている。というわけで「国立現代美術館」に一人ででかける。美術館は自分の感性に応じて見るのが一番。そのため,たいてい一人ででかける。

 地下鉄二号線のサダン(舎堂)駅で地下鉄四号線に乗り換え,デーコンウォン(大公園・英語名Seoul Grandpark)駅で下車。そこから無料バスで20分くらいで美術館には到着。そう,美術館は大公園の中(というか一環)なのだ。大公園は名前の通り本当に大きな公園で,ソウルランドという遊園地(あまりイケてない),動物園,植物園,自然史博物館,美術館,などなど……などの設備を含んでいる(夏にはプールなんかもある予感)。その広さは,果たして何人のソウルっ子が大公園の全施設を制覇したか不明なほどである。

 と,韓国映画好きの人ならここまで読めばピンときたことと思うが,この美術館は「美術館の隣の動物園」(シム・ウナ主演)の舞台となった,あの美術館である。

 内容はなかなか満足できる。ちょうど「韓国美術2001;絵画の復権」と題された企画展が行われており,韓国の現代美術家の作品を見ることができた。海外作品展示場もアンディーウォーホルなどのなかなか有名な作品もそろえてあって,これで青少年入場料300ウォン(約29円)というのはなかなかオトクである。欠点はあまりにも広いこと。一日で回って回れないことはないが,じっくりと味わって鑑賞するには一日では無理だ。あと,ミュージアムグッズがほとんどない(一般書籍や雑貨は多いのだが)こともいただけない。美術館に行くと,内容に満足できた場合は,募金がてら美術館のオリジナルグッズ(たいていモノの割には高い,キーホルダー1,000円とか)を買うことにしているのだが……。

 夜のニュースを見ていると,ソウル市内で民衆大会というシーウィー(示威・デモ)があった模様。おそらく社会学科の学生も多数参加したに違いない。学生室のカレンダーにちゃんと書かれていた記憶がある。

 そして,「日本歴史教科書歪曲記述」に反対する市民が,産経新聞や自民党のホームページに一斉アクセスをかけ,サーバをダウンさせるという事件が起こっていた。サイバースペースを関心分野としている僕には格好の材料だ。どう考えても「サイバーテロ」に近いと思うのだが,韓国メディアの報じ方は「ネティズンの力が効果を発揮」のような,行動を賞賛しても非難する論調はなし。市民運動や労働運動を重視するお国柄だろうか,それにしても,実際に攻撃を仕掛けた奴らを「ネティズン」と呼ぶのはさすがにおどろいた。思考様式や価値観の判断様式が他国とは大きく異なっていることを如実に表した事件であった。ためしに産経新聞のページにつないでみると……やはり接続できない,っていうか,krドメインからつないでいる僕って,産経新聞にしてみたらテロリストの一員だよな。